在宅・訪問看護における臨床倫理の4分割シートの活用

あおいろ訪問看護ステーション、いろいろ株式会社、代表の大橋です。

私はがん看護専門看護師として、在宅で過ごされる方への訪問看護サービスを運営・提供しています。

本日は、在宅・訪問看護における臨床倫理の4分割シートの活用についてお伝えします。

臨床倫理の4分割法は、臨床の治療方針を決定するための実践的な方法であり、以下の4つの視点から構成されています。

医学的適応(Medical Indications)

善行と無危害の原則

1.患者の医学的問題は何か? 病歴は?

診断は? 予後は?

2.急性か、慢性か、重体か、救急か?可逆的か?

3.治療の目標は何か?

4.治療が成功する確率は?

5.治療が奏功しない場合の計画は何か?

6.要約すると、この患者が医学的および看護的ケアからどのくらい利益を得られるか?

また、どのように害を避けることができるか?

患者の意向(Patient Preferences)

自律性尊重の原則

1.患者には精神的判断能力と法的対応能力があるか?
能力がないという証拠はあるか?

2.対応能力がある場合、患者は治療への意向についてどう言っているか?

3.患者は利益とリスクについて知らされ、それを理解し、同意しているか?

4.対応能力がない場合、適切な代理人は誰か?
その代理人は意思決定に関して適切な基準を用いているか?

5.患者は以前に意向を示したことがあるか? 事前指示はあるか?

6.患者は治療に非協力的か、また協力できない状態か?
その場合、なぜか?

7.要約すると、患者の選択権は倫理・法律上、最大限に尊重されているか?

■QOL(Quality of Life)

善行と無危害と自律性尊重の原則

1治療した場合、あるいは、しなかった場合に、通常の生活に復帰でる見込みはどの程度か?

2.治療が成功した場合、患者にとって身体的、精神的、社会的に失うものは何か?

3.医療者による患者のQOL評価に偏見を抱かせる要因はあるか?

4.患者の現在の状態と予測される将来像は延命が望ましくないと判断されるかもしれない状態か?

5.治療をやめる計画はその理論的根拠はあるか?

6.緩和ケアの計画はあるか?

周囲の状況(Contextual Features)

忠実義務/公正の原則

1.治療に関する決定に影響する家族の要因はあるか?

2.治療に関する決定に影響する医療者側(医師・看護師)の要因はあるか?

3.財政的・経済的要因はあるか?

4.宗教的・文化的要因はあるか?

5.守秘義務を制限する要因はあるか?

6.資源配分の問題はあるか?

7.治療に関する決定に法律はどのように影響するか?

8.臨床研究や教育は関係しているか?

9.医療者や施設側で利害対立はあるか?

臨床倫理の具体的なケース

臨床倫理の具体的なケースは、医療・介護の現場でさまざまな倫理的問題に直面することがあります。

以下にいくつかの具体的なケースが掲載されていたので引用します。

(1)入院直後に急死した患者の遺族への対応

患者が入院直後に急死した場合、遺族とのコミュニケーションが重要です。遺族の感情や希望を尊重しながら、遺族に対して適切なサポートを提供することが求められます。

(2)家で死にたいという意向を持つ一人暮らしの末期がん高齢者

末期がん患者が家で死にたいという意向を持っている場合、在宅医療の選択肢を検討する必要があります。家族や医療スタッフとの協力を通じて、患者の希望を尊重しつつ、適切なケアを提供することが求められます。

(3)延命措置拒否の意思が明確な救急患者の治療方針の決定

リビングウィルを持つ救急患者の治療方針を決定する際、患者の意向を尊重しつつ、医療スタッフとの協議が必要です。延命措置を拒否する意思が明確な場合、それに基づいて適切な治療方針を立てることが求められます。

(4)代理意思決定する妻の葛藤

患者が意思決定能力を失った場合、代理意思決定者として妻が選ばれた場合、妻は患者の意向を尊重しつつ、最善の選択をするために葛藤することがあります。

医療スタッフは妻と協力し、患者の利益を最優先に考慮する必要があります。

(5)高齢者の血液透析の選択

高齢者の血液透析の選択は、患者の状態や希望、家族との協議を通じて行われます。医療スタッフは患者の意向を尊重しつつ、最適な治療方針を提案する役割を果たします。

これらのケースは、臨床倫理の実践において、患者の利益を最優先に考慮しつつ、多職種で協力して適切な判断を行うことが求められます

4分割シートにおける私なりの簡易版プロセス

私は病院で仕事をしいてたときから、日常的にこの4分割シートで物事を考えることが多かったです。私なりの簡易版プロセスを示しますと以下のようになります。長くても(1)~(4)のプロセスを30分で考えます。

今ですと、訪問導入の初回に行うことが多いです。臨床において行うことですので、あまり時間をかけないようにしています。

(1)4つの視点についてざっと見渡す(10分)

【医学的適応】

今どんな治療をしていて、それは効果があるのか、ないのか

【患者の意向】

治療に対して患者(利用者)はどう考えているのか

【QOL】

治療および治療された状態における今の利用者のQOLはどうか(苦痛はどうか)と置き換えるとわかりやすいです

【周囲の状況】

最後に家族や周囲の人はどうか、社会的な問題はどうか

(2)問題の目星をつけて、さらに深く情報収集する(5分)

(3)問題を明確化する(5分)

(4)問題に対する対策を考える(5分)

(5)周囲と共有する(5分)

さいごに~臨床倫理の4分割をお伝えした理由~

訪問看護においては、医学的適応についてほとんど情報がないことが多く、かわりに患者の意向やQOL,周囲の状況が見えやすい立場にあります。

私はこの「医学的適応が見えにくい」ということを逆手に取り「今はどんな治療をしているのか、それについてどう考えているのか」を聞き出します。

QOLや周囲の状況については聞かなくても、1回訪問すればそれがわかります。毎回ではありませんが、必要なときは、その情報をまとめたものを病院受診の時に持参していただき共有します。

今回、臨床倫理の4分割をお伝えした理由は「治療の差し控え、中止」に関して少し悩むケースに遭遇したからです。

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